[特別企画]

この度は、ウイルソン博士の医学的見地からみた死直前の脳生理研究に関する紹介論文を掲載する.脳波の変化と本人の臨死体験等との関係に興味あるが、その詳細にはさらなる研究結果が待たれる.(出典:Medsape 2023.5.2.)

死の直前の驚くべき脳活動

F.P.ウイルソン、医学博士(イエール大学準教授)

  臨死体験の概念は文化的多様性に基づいている.そしてその概念は文化的方向をたどっているようである.たとえば、西洋のキリスト教徒はどうも守護天使に会い、一方でヒンズー教徒は死神の使徒を目撃するという傾向があるようであり、それでも、幽体離脱体験、心の安らぎの気持ち、もちろんトンネルの出口の明かりが見えるなど、幾つか一定の点においては文化というものを超越しているようである.

  唯物主義者の一人として、私はこれらの人々が死後の生活という形而上学的世界についてあれこれと論じようとは思っていない.思うに、おそらく彼らは、その経験が頭脳の働きによって左右されるという事実に原因し、また、死につつある時にはわれわれの頭脳はお互いに異なっているというよりはもっと似通っているのではないかと思う.

  われわれはこの研究について話を進めるに当たり、ジモ・ボルジジン博士とそのチームによる国立科学アカデミーの紀要の論文にお出ましを願おう.

  ボルジジン博士は意識の神経的相互関係について研究されており、それは今日のあらゆる科学の中においておそらく最も重要なものの一つである.すなわち、もしも意識が脳内の手続きに由来するのであれば、どのような手続きの流れが意識にとって最小限必要であろうか.

  この問題の研究では4名の意識不明患者を追跡調査している.すなわち、昏睡患者で、実際に、生命維持装置が外されると死の瞬間までの間に突然行動を起こしたのである.このうち3名は遷延した心停止による重症の酸素欠乏脳障害であった.心臓機能は再開したが、脳障害の方は重篤であった.4番目の患者には大きな脳出血があった.4名ともこのように昏睡状態にあり、脳死ではないが無反応で、グラスゴーコーマスケール(訳注.国際的に広く利用されている意識障害の評価方法)では最低レベルにあり、外部からの刺激には全く反応しなかった.

  どの家族も生命維持装置を外し、呼吸チューブを抜去する決断をしたが、この研究には登録してくれた.

  そのチームは頭部に脳波計、胸部に心電計を、その他のモニター装置を装着し、昏睡および無反応の患者が死ぬ時に生起する生理学的変化を観察した.

心拍リズムはこれから:

これに変化した.

そして結局停止した.

   しかし、これは脳についての研究であり、心臓についてではない.

生命維持装置を外す前に、脳の電気的シグナルは以下のように示していた.

  皆さんがご覧のものは種々の周波数を示している脳波で、赤色部分は高周波を示している.赤色全体は低振動へと低下していた.少なくともわれわれが理解している意識は高周波の現象である.

  呼吸チューブを外した直後は、パワーはそれほど変化しなかったが、高周波での幾らかの活動増加をご覧いただけよう.

  しかし、4名中2名で実際にある驚くべきことが起こっていた.脳がだんだん死に近づくにしたがって何が起こっているかを観察してみよう.

  ここで、死の約300秒前に高ガンマ周波数のところで大きなパワー変動を示している.

  このスパイクは体制感覚皮質および背側前頭連合野で起こり、その領域は意識的体験と関連している.この患者は死亡5分前に何かを体験しているようである.

  しかし、皆さんが考えていることは私にはわかっている.これは酸素供給を受けていない脳なのだ.脳細胞は速やかに障害され無秩序に壊れ始めている.……いわば、今際の際である.無意味なノイズである.

  しかし、連結性地図作成では異なる話が語られている.信号は体系化しているようである.それらの高周波力は後方皮質の“ホット・ゾーン”において増加している連結度を大きく変動させており、多くの研究者が感じている脳のある領域は意識的感覚になくてはならないのである.この図は私が以前に示したもののように未処理の脳の電気的出力の地図ではなく、意識的ホット・ゾーンにおける脳領域間の結合力を示したものである.これらの赤色領域は問題のところで、死につつある神経細胞が混乱している悲鳴ではなく、頭頂および後側頭葉から往復する最後の一連のメッセージをあらわしているのである.

  事実、これらの患者の脳の電気的パターンは夢を見ている人に認められるパターンと非常に似通っており、また、幽体離脱の感覚を伝えるテンカン患者においても同様である.

  ここで2の点において理解するには問題がある.まず、これらの意識のシグナルは生命維持装置を外す以前には存在していなかった.これら昏睡状態の患者は最小限の脳の活動をしており、死の過程が進む前に何かを体験するという証拠はなかった.これらの脳は臨死に当たって基本的に異なって機能しているのである.

  また、第2に、われわれが理解しておかなければならないことは、これらの人たちの脳は、その最後の瞬間において、患者が本当に意識的体験をしているかどうかわれわれは知る由もないが、意識的脳が機能する方向に働いているように思われる.先に述べたとおり、この研究の患者さんたちは全員亡くなっている.それら形而上学的不足部分について、私は以前から指摘しようと思っていたところであるが、彼らがどのように最後の瞬間を体験しているかを尋ねる方法はないのだ.

  ここでまとめておこう.この研究は、われわれが死ぬ時にどういうことが起きているかという問題の解答にはなってはいない.死後の生活や霊魂の存在および永続性について何も語っていない.しかし、この研究が果たしているところは神経科学における実に困難な問題、すなわち意識の問題の解明に役立っているのである.また、このような研究を推し進めると意識の根源は神の息吹あるいは生ける宇宙のエネルギーに由来するというものではなく、それが何か超越したものを生起するために同時に行動する脳という非常に複雑な機械の非常に特殊な部分に由来していることを発見するかもしれないのである.私にとっては、それこそは実に崇高である.

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